東京地方裁判所 平成9年(ワ)17826号 判決 2000年9月27日
甲事件原告
三港運輸株式会社
甲事件被告
日立自動車交通株式会社
乙事件原告
稲浪久夫
乙事件被告
三港運輸株式会社
主文
一 甲事件被告は、甲事件原告(乙事件被告)に対し、金二〇四万五八五六円及びこれに対する平成六年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告に対し、金九〇八万八一五四円及びこれに対する平成六年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その三を甲事件被告及び乙事件原告の、その余を甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 甲事件
甲事件被告は、甲事件原告(乙事件被告)に対し、金三四一万二九七〇円及びこれに対する平成六年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告に対し、金一億〇三八九万一一一七円及びこれに対する平成六年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実及び容易に認定し得る事実
1 事故の発生
(一) 日時 平成六年七月六日午前四時一七分ころ
(二) 場所 東京都中央区銀座四丁目一番二号先の交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 管野車 管野敏夫(以下「管野」という。)が甲事件原告(乙事件被告。以下「甲事件原告」という。)の業務として運転していた、甲事件原告の所有する普通貨物自動車
(四) 稲浪車 乙事件原告(昭和一九年一一月一九日生。以下「稲浪」という。)が甲事件被告の業務として運転していた普通乗用自動車
(五) 事故態様 本件交差点を日比谷方面から月島方面に向かって直進進行しようとする管野車が、新橋方面から東京駅方面に向けて本件交差点を直進進行する稲浪車と本件交差点内で出会い頭に衝突した(以下「本件事故」という。)。
2 本件事故の結果
甲事件原告は、本件事故により、管野車に二八七万〇七三〇円の修理費を要する損傷を受け(甲四)、事故処理のためのレッカー代として九万二二四〇円を支払った(甲五、六)。
また、稲浪は、本件事故により、びまん性脳損傷の傷害を受けて入院治療を余儀なくされ、平成六年一二月三一日に症状固定したが(丙三)、四肢の自発運動不能、意思疎通性不能、全介助を要する状態となり、自賠責保険の後遺障害認定手続で一級三号の認定を受けた(丙四)。
稲浪の損害のうち、治療費は一五〇五万五八九四円、入院付添費は一〇七万四〇〇〇円(日額六〇〇〇円の入院期間一七九日分)、入院雑費は二三万二七〇〇円(日額一三〇〇円の入院期間一七九日分)、休業損害は一九二万六二一九円(平成六年四月から六月までの給与合計額九六万八五〇五円の九〇分の一七九に相当する額)である。
3 損害のてん補
稲浪は、自賠責保険金三〇〇〇万円及び治療費等の労災保険給付金一六四〇万一〇五五円を受領した。
二 争点
1 本件事故態様及び過失責任の所在
(一) 甲事件原告の主張
本件事故は、管野が、青色の対面信号に従って本件交差点に直進して進入したところ、稲浪が、対面信号が赤色であるにもかかわらず、これを無視又は看過して本件交差点に直進進入したために発生したものである。
(二) 甲事件被告及び稲浪の主張
稲浪車の対面信号は青色である。
本件事故は、管野が、対面信号が赤色であるにもかかわらず、これを無視して本件交差点に直進進入したために発生したものである。
2 甲事件原告の損害額の算定
甲事件原告の損害は、前記修理費、レッカー代のほか、次の休車損害である。
休車損害 請求額 四五万円(日額一万五〇〇〇円の三〇日分)
3 稲浪の損害額の算定
(一) 稲浪の主張
稲浪の損害は、前記治療費、入院付添費、入院雑費及び休業損害のほかは、以下のとおりである。
(1) 差額ベッド代(請求額合計 六二四万〇二一〇円)
ア 亀有病院分(請求額 三二万一三六〇円。平成六年八月五日から同年一一月三〇日まで)
イ 東邦鎌谷病院分(請求額 三九九万二一〇〇円。平成九年一〇月一四日から平成一〇年一二月三一日まで)
ウ 同(請求額 一九二万六七五〇円。平成一一年一月一日から平成一二年三月三一日まで)
(2) 将来差額ベッド代(請求額 二〇五七万七〇九四円)
日額四〇〇〇円、平成一二年四月時の稲浪の年齢(五五歳)と同じ男性の平均余命である二五年(ライプニッツ係数は一四・〇九三九)分を計算すると、右の金額となる。
(3) 将来入院雑費(請求額 七〇六万九一四八円)
日額一三〇〇円、症状固定した平成六年一二月時の稲浪の年齢(五〇歳)と同じ年齢の男性の平均余命である二八年(ライプニッツ係数一四・八九八一)分を計算すると、右の金額となる。
(4) 将来介護費(請求額 一六三一万三四一九円)
日額六〇〇〇円、隔日介護として、前項と同様、二八年分を計算すると、右の金額となる。
(5) 逸失利益(請求額 四五八〇万三四八八円)
基礎収入を四〇六万二七五四円、労働能力喪失率一〇〇パーセント、症状固定時の五〇歳から六七歳までの一七年のライプニッツ係数一一・二七四として計算すると、右の金額となる。
(6) 傷害慰謝料(請求額 三〇〇万円)
(7) 後遺症慰謝料(請求額 二六〇〇万円)
(8) 弁護士費用(請求額 七〇〇万円)
(二) 甲事件原告の主張
(1) 差額ベッド代及び将来差額ベッド代のうち、(1)ア(亀有病院分)は三一万二〇〇〇円の限度で認めるが、その余は否認する。差額ベッドの必要性、金額、余命期間を争う。
(2) 逸失利益については、五〇パーセントの生活費控除をすべきである。
(3) その余の損害額も争う。
第三当裁判所の判断
一 争点1(本件事故態様及び過失責任)
1 本件事故態様について
甲二、三、一〇、三二、乙一、証人栗毛野徹二(以下「栗毛野」という。)、同佐藤君男(以下「佐藤」という。)の各証言、管野の本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件事故現場と衝突の状況
本件交差点は、別紙図面のとおり、日比谷方面と月島方面とを結ぶ通称晴海通り(以下「晴海通り」という。)と東京駅方面と新橋方面とを結ぶ通称外堀通り(以下「外堀通り」という。)とが交差する交差点であり、いずれの道路も時速六〇キロの速度制限の規制がなされている。
本件交差点は銀座の繁華街の中に位置するが、本件事故当時は未明であったために車両の交通量は多くなかった。また、視界は、夜間照明によって照らされる状況ではあったが、良好であった。
本件事故によって、左方から衝突の衝撃を受けた稲浪車は、別紙図面のとおり、一回転してに停止していた栗毛野の運転車両に<ウ>のとおり左側面を衝突させ、さらに前進して最終的に<エ>の地点で信号機に衝突して停止した。また、管野車も、四輪が全て二二・六メートルから三〇・四メートルのスリップ痕を路面に残して本件交差点の東角の信号機に衝突して停止した。
なお、本件交差点内の路面には、管野車の残した右スリップ痕のほかに、本件衝突直前に稲浪車が残したと考えられる、九・三メートル及び一〇・九メートルのスリップ痕が残存している。
(二) 本件事故の関係者の証言、供述の要旨とその評価
(1) 栗毛野証言の要旨
タクシー運転手である栗毛野は晴海通りを月島方面から日比谷方面に向かって第一車線を走行していたが、本件交差点の対面信号が黄色から赤色に変わったため、別紙図面の地点に停止した。栗毛野は本件交差点を新橋方面に左折して外堀通りを走行するつもりであった。栗毛野は、停止後、交差点付近の歩道上に自車に乗ってくれそうな客がいないか探していたが、栗毛野は本件交差点を新橋方面に左折して外堀通りを走行するつもりだったので、視線は特に左側のソニープラザ側の歩道に向けられた。いつ路地から客が出てくるか分からないので気を使ってきょろきょろする状況であった。その後、タイヤの音が聞こえたので目をその方向に向けると、管野車と稲浪車が衝突するのが見えた。対面信号の表示は、自車が赤色で停止した後は、事故後も含めて全く見ていない。
(2) 佐藤証言の要旨
タクシー運転手である佐藤は外堀通りを東京駅方面から新橋方面に向かって第二車線を走行していた。本件交差点の一つ手前(東京駅方面)の交差点を青色で直進進行し、その交差点を過ぎたときに、佐藤は、本件交差点の対面信号であるの信号が赤色に変わるのを視認した。そこで、佐藤は、本件交差点を直進進行するつもりだったので、ギアを抜いた惰力走行を始めたところ、その直後、前方からものすごい爆走音が聞こえ、前方車のタクシーの屋根越しに管野車が右方から左方に走行するのが見えた。そして、管野車と稲浪車の衝突音を聞いた。
実況見分調書(甲二、三)上の指示説明部分は自らの記憶とは必ずしも一致しておらず、陳述書(乙二)は甲事件被告の事故処理担当者の質問責めの結果であって、自分の意思が正確に反映していない。
(3) 管野供述(実況見分調書(甲二)の指示説明も含む。)の要旨
管野は本件事故当時晴海通りを日比谷方面から月島方面に向かって走行していた。本件交差点の一つ手前(日比谷方面)のJRのガード下の交差点を通過する際、管野は、本件交差点の対面信号が赤色であることを視認した。そこで、管野は少しブレーキをかけ、それまで時速五五キロから六〇キロだった速度を時速四五キロから五〇キロに若干減速して走行を継続した。そして、本件交差点手前の停止線を通過し、横断歩道に進入した別紙図面<2>の地点で本件交差点の対面信号が青色に変わったので、アクセルを踏んで加速に転じた。しかし、すぐさま、右方から走行してくる稲浪車を発見して急ブレーキをかけたものの、稲浪車と衝突するに至った。
(4) 各証言及び供述の検討
稲浪車及び管野車が本件交差点に進入した時点における、それぞれの対面する信号表示いかんについて、栗毛野、佐藤はいずれも直接目撃しているわけではない。しかし、本件交差点の車両用信号は、外堀通りのそれが四秒間の黄色の後に赤色に変わり、二秒間の全赤状態を経た後、晴海通りのそれが青色に変わること、佐藤が外堀通りを規制する本件交差点の車両用信号が赤色に変わった直後に管野車が本件交差点内に現れたこと、栗毛野は本件衝突を見たものの、その時点又はその直前の信号表示については全く見ておらず、本件事故態様を認定する上で有用な目撃をしていないこと、佐藤の実況見分調書上の指示説明(甲二、三)や陳述書(乙二)が前示証言内容と必ずしも符合してはいないが、前者は対面信号が赤色に変わったのを見た地点として記載したものではないから必ずしも矛盾するものではないし、後者も作成経過にやや任意性を欠いた疑いがあり、結局、これらが佐藤証言の証拠価値を左右するものではないこと、が認められ、以上によれば、本件事故状況については、佐藤証言を基礎に認定するのが合理的と考えられる。
そして、管野の本件事故態様に係る供述は、概ね、佐藤証言に沿うものと認められる。
(三) 稲浪車の本件交差点進入時の走行速度
甲三二によれば、稲浪車が本件事故直前の制動措置をとる前の走行速度は時速約五〇キロであることが認められる(11項の1、17項。タコチャートによる調査結果と考えられ、その信用性は高い。)。
(四) 当裁判所の認定する本件事故の態様
(1) 管野は、晴海通りを日比谷方面から月島方面に向けて第三車線上を時速約四五キロから五〇キロの速度で走行して本件交差点に向かい、本件交差点手前の停止線を超え、かつ、横断歩道上に進入した段階で、対面信号が赤色から青色に変わったので、加速に転じたものの、その直後、右方から走行してくる稲浪車を発見したので直ちに急制動措置をとった。しかし、稲浪車との衝突を回避することはできなかった。
別紙図面のとおり、管野が対面信号の表示が青色に変わったのを見たときの速度及びその地点(<2>)と稲浪車との衝突地点(<3>)までの距離(約一五メートル)からすると、管野車の対面信号が青色に変わってから本件事故が発生するまでに少なくとも一秒以上は経過していたと考えられる。
(2) 稲浪は、外堀通りを新橋方面から東京駅方面に向けて第二車線上を時速約五〇キロ(秒速約一三・八メートル)で走行していたが、本件交差点内に入った直後、左方から走行してくる管野車に気づき、直ちに急制動措置をとったものの、同車と衝突するに至った。稲浪車の速度、本件交差点の信号サイクル(稲浪車の対面信号の黄色四秒、全赤二秒、その後管野車の対面信号が青色になる。)のほか、本件事故が管野車の対面信号が青色になってから少なくとも一秒以上は経過した後に発生したと考えられること、を総合すると、稲浪車が本件交差点手前の停止線を通過する際の対面信号の表示は、稲浪車の対面信号が黄色から赤色に変わった直後であったと考えられる。
2 管野と稲浪の過失責任について
以上の事実によれば、本件事故発生の主たる原因は、稲浪が、青色から黄色に変わった対面信号の表示に従って、本件交差点手前の停止線の位置で停止するために速やかに制動措置をとるべきであったにもかかわらず、これを遵守せずにそのまま走行し、対面信号が赤色に変わった直後に本件交差点に進入した運転態様にあったといわなければならない。
しかし、他方、運転者は、本来、交差点の対面信号が赤色であれば、交差点手前の停止線の位置に安全に停止できるように十分な注意を払って運転するように努めなければならないにもかかわらず、管野は、時速約四五キロから五〇キロの速度を維持したまま、平然と本件交差点手前の停止線を通過し、かつ、横断歩道に進入したものであり、かかる信号を全く遵守しようとしない走行態様は極めて危険かつ悪質であるというべきであって(もし、対面信号の表示が赤色のままであったならば、交差道路(外堀通り)を青信号で走行してくる車両との衝突を到底回避することはできない。信号無視という自らの一方的な過失によって重大な事故を引き起こす事態ともなり得るのである。)、たまたま、横断歩道上で対面信号が青色になったからといって、本件事故に関与した管野の運転態度に対する責任非難が消滅すると考えるのは不合理であるといわなければならない。そして、その責任の程度は、管野の運転態様が、赤信号を遵守して青色に変わるのを待つ運転者が青色に変わるタイミングを見計らって青色に変わる直前に発進する運転態様(いわゆる見切り発車)とは比較にならないほどの反規範的性質を有すること、本件事故の相手方がたまたま信号を遵守せずに本件交差点に進入した稲浪車であったとしても、管野の運転態様も信号不遵守という点では基本的には同質であること、管野車が破壊力の大きい重量車であり、それゆえ運転者の管野にはより細心な運転上の注意義務を尽くすことが求められること、を考慮すると、本件事故発生に対する稲浪の過失責任との比較においても決して過小に評価すべきものでなく、当裁判所は、双方の過失割合については、管野四〇、稲浪六〇とするのが合理的かつ相当であると考える。
二 争点2(甲事件原告の損害額の算定)
1 甲八によれば、甲事件原告の本件事故前の直近三か月間の利益合計額は一三七万〇二三五円(売上金額から経費合計額を控除した各月の利益額の合計)であるから、これを期間中の日数である九二で除した金額(一万四八九三円)が一日当たりの休車損害となる。
したがって、甲事件原告の三〇日分の休車損害は四四万六七九〇円となる。
2 前示認定事実も併せると、甲事件原告の損害額は、合計三四〇万九七六〇円となる。
3 以上によれば、過失相殺後の甲事件原告の損害額は、二〇四万五八五六円となる。
三 争点3(稲浪の損害額の算定)
1 前示争いのない事実によれば、治療費一五〇五万五八九四円、入院付添費一〇七万四〇〇〇円、入院雑費二三万二七〇〇円、休業損害一九二万六二一九円の合計一八二八万八八一三円である。
2 差額ベッド代 二六八一万七三〇四円
(一) 差額ベッド代は、被害者の治療のために必要かつ相当である場合に認められるものであるところ、本件では、<1>他の患者に対する迷惑を生じさせないために必要であると考えられること(丙一三)、<2>稲浪には常時介護が必要な状態であって、親族や職業人による毎日の介護費用や自宅での生活を前提とした家屋改造費用等が当然損害として計上され得るものだが、稲浪は、今後とも現在の入院生活を継続することを前提に、隔日の親族による介護費用の請求にとどめ、職業人による介護費用、家屋改造費用を請求していないこと、<3>稲浪の入院は療養型のそれであって、将来継続して入院するかどうか疑問がないわけではないが、現に入院し、それが今後とも継続すると見込まれること、からすると、差額ベッド代を認めるのが合理的かつ相当である。
(二) すると、以下のとおりとなる。
(1) 亀有病院分(認容額 三二万一三六〇円)
丙六の1から4により認める。
(2) 東邦鎌谷病院分(認容額 五九一万八八五〇円)
丙五の1から15、一二の1から15により認める。
(3) 同病院の将来分(認容額 二〇五七万七〇九四円)
日額四〇〇〇円で年額一四六万円、平成一二年四月時の稲浪の年齢(五五歳)と同じ男性の平均余命である二五年(平均余命期間。これより短いことをうかがわせる合理的な証拠はない。)のライプニッツ係数一四・〇九三九として算定すると、以下のとおりとなる。
四〇〇〇円×三六五×一四・〇九三=二〇五七万七〇九四円
3 将来入院雑費 認めない
将来入院雑費として支出が必要となる物品としては主として紙おむつや下着等の生活用品であると考えられることからすると、逸失利益として得る賠償金から出捐すべき生活費として賄われるもの又は後遺症慰謝料の斟酌事情の一つとして考慮すべきである。
4 将来介護費 一六三一万三四一九円
日額六〇〇〇月だが、隔日介護(二分の一を乗ずる)とすると日額三〇〇〇円となり、症状固定時である平成六年一二月時の稲浪の年齢(五〇歳)と同じ年齢の男性の平均余命で二八年(ライプニッツ係数一四・八九八一)で算定すると、以下のとおりとなる。
三〇〇〇円×三六五×一四・八九八一=一六三一万三四一九円
5 逸失利益 四五八〇万三四八八円
(一) 基礎収入を四〇六万二七五四円(丙八)、労働能力喪失率を一〇〇パーセント、症状固定時の五〇歳から六七歳までの一七年のライプニッツ係数を一一・二七四として算定すると、以下のとおりとなる。
四〇六万二七五四円×一×一一・二七四=四五八〇万三四八八円
(二) 甲事件原告は、稲浪が入院生活を継続して行う場合、その生活費は一般健常者に比して安価で済むから、五〇パーセントの生活費控除を認めるべきである旨主張するが、下着やおむつなどの入院に伴う雑費類、入院生活に伴う親族の金銭的負担(例えば病院までの交通費等)など、一般健常者とは異なる費目による出費が少なくなく、これが一般健常者の生活費に比べて少額であると認めるに足りる合理的な証拠はない。
6 傷害慰謝料 三〇〇万円
稲浪の負傷の程度や入院生活を余儀なくされていたことなどを考慮した。
7 後遺症慰謝料 二六〇〇万円
稲浪の後遺症の内容や程度、今後生涯入院生活を余儀なくされる不安と悲痛、本人のみならず、親族らも受ける肉体的、精神的苦痛、前示算定費目以外に生じ得る経済的な負担等も考慮した。
8 小計 一億三六二二万三〇二四円
9 過失相殺(六〇パーセント) 五四四八万九二〇九円
10 自賠責保険金等のてん補後の金額 八〇八万八一五四円
11 弁護士費用 一〇〇万円
本件訴訟の経過や事件の難易度等を総合的に考慮し、右金額をもって相当と判断した。
12 結論 九〇八万八一五四円
四 結論
よって、甲事件原告の請求は、二〇四万五八五六円及びこれに対する平成六年七月六日(本件事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、乙事件原告の請求は、九〇八万八一五四円及びこれに対する平成六年七月六日(本件事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、それぞれ理由がある。
(裁判官 渡邉和義)